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2008年03月19日

九谷焼の伝統画風

「この柄どこかで見た」「我が家にも似た柄がある」と仰る方が きっと何人もみえることと思います。
この六つの絵柄は九谷焼の代表的な歴代の画風で 今でも造り続けられていますので「さもありなん」と思うのです。
では ご紹介しましょう。 先ずは「古九谷風」です。
17世紀中ごろ 加賀三代藩主前田利常・三男利治により 領内の九谷村で陶石が発見されたのを契機として興された九谷焼ですが 築窯と同時に焼かれたのがこの古九谷です。
ですから九谷焼最古の文様といえますが 画風は中国・明朝の技法が巧みに取り入れられています。
それは透明な上絵の具である緑,黄,紫,紺青の四つの色と 不透明な赤の五彩が用いられ素地の白を活かすことが前提の「色絵」に対して 上記透明釉四彩のうち二つ若しくは三つの色で全体を塗り潰すという「青手」の二種の技法です。 
何れも豪放磊落な力強い骨描きと 重厚な彩色で男性的な特徴を持っています。

その後幕府より密貿易の嫌疑を掛けられた加賀藩は 焼窯を取り壊してしまったため凡そ一世紀に亘り焼き物の生産が中断してしまいます。
しかし19世紀に入るや否や都より仁清,乾山と並び称せられた名工・青木木米を招じ 焼窯が再興されます。
京の雅を持ち込んだ木米の画風は 素地を赤絵として人物を中心に描き込んだ呉須赤絵の色調に特徴があり 如何にも和やかな雰囲気を持っています。

この木米が帰京した後 大聖寺藩の豪商・吉田屋伝右衛門がこの地に窯を開き 木米とはまた違った画風の焼物をつくります。
それは青手古九谷の様式を受け継いだ 全面を色で埋めて素地を隠してしまう「塗埋手」と呼ばれる技法です。
色彩の特徴は赤を使わず グリーンと黄色に特徴を持つ「青九谷」と呼ばれる画風となっています。

その後吉田屋窯を譲り受けた宮本屋宇右衛門お抱えの画工が 飯田屋八郎右衛門でそれまでの「塗埋手」とは全く異なった画風の焼物をつくります。
白生地全体に赤絵細描の限りを尽くし その上随所に金彩を施して優美さも兼ね備えたものとなっています。
モチーフは漢学の影響を受け 「竹林の七賢人」など中国の風俗描写が多く見られ 生き生きと描かれています。

そして明治に入ると西洋文化の流入とも相俟って 和洋折衷のみならずそれまでの上絵技法全てを盛り込み集大成させたのが 飯田屋窯で腕を磨いた九谷庄三(しょうざ)です。
別名「彩色金襴手」と呼ばれています。
モチーフも花鳥人物山水と全てを盛り込んだ 絢爛豪華な絵巻の世界です。
一見 成金風作品と見られるのもこの画風です。

一方 庄三と時期を同じくする頃 京より呼び寄せられた名工・永楽和全は全面を赤絵で塗り尽くしたうえ その上に金彩の模様を描くというこれも豪華さが特徴の焼物をつくり出しました。
花鳥獣虫などが一筆書きされた「金襴手」と呼ばれるものです。

こうして六種の画風を見て参りますと 京の都の影響は免れないものの 寧ろそれを咀嚼した上見事に昇華していったこの地の 自由闊達な風土も窺い知れるところではないでしょうか。
この続編を近いうちに掲載致します。 どうぞそちらも是非ご一読下さい。 

投稿者 Sugino : 2008年03月19日 03:38

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